地域に目配りできる自治体の規模には上限がある

福島被災地を視察して その③

津波により、海岸近くの住宅は土台だけが残された。
津波により、海岸近くの住宅は土台だけが残された。
 福島県北に位置する新地町役場の3階で、副市長からお話を伺いました。眼下には、平地が広がり、ところどころに緑も見えます。その先には海岸線も広がっています。震災前は、一面が住宅街と田畑で、ここから海は見えなかったそうです。
今は瓦礫の山が残り、点在する家は1階ががらん胴、茫漠としています。海岸まで行くと、家の土台だけがかろうじて残り、松林も無残にねじり折られ、大漁旗の一部がまだ根っこにまとわりつくように残っていたりします。

役場のそばにある「新地町思い出倉庫」には、写真や旗、賞状などがていねいに泥がおとされ、乾かされ整理されています。緊急雇用により、住民の方々が作業をしていらっしゃいました。そこに暮らす人たちだからこそ、近所のつながりで、情報を手繰り寄せ、持ち主がわかるのだと伺いました。

 福島大学行政政策学類今井照(あきら)教授に、朝日新聞と共同で実施した、原発事故によって全国に避難している住民への聞き取り調査の報告をお聞きしました。

「今後、日本の原発をどうすべきか」の質問に、
「減らす」「やめる」が7割で、「増やす」「現状維持」の3割を大きく上回ったとのことです。
また、菅政権の浜岡原発運転停止の要請についは、75%が「評価する」と答えたそうです。
 
  原発災害の特徴は、放射能汚染の危険は認識しているけれども、これぐらいまでは大丈夫、これはだめという判断が多様に異なるため、見えないことへの不安が、互いの関係を壊していっていることだとおっしゃいます。子どもをもつお母さんたちの中にも、母親同士、夫婦間などで、安全に対する考え方の違いによる不和や亀裂に悩んでいる事例も多いようです。
 また、初動期の1週間、1ヵ月間は、友好都市からのダイレクトな支援、情報提供が有効だったそうです。近場と中距離の段階的な友好都市による自治体間ネットワークが必要です。

自治体の課題としては、
・自治体の政治・行政の力量が震災対応の差となった
・市町村合併が行われたが、地域に目配りできる自治体の規模には上限があること
人材の派遣については、
・長期の派遣には財源確保
・短期の派遣には行政能力が必要であり、被災地域の職員がいなくても采配が振れる人、避難所を運営できる人材が本当はほしかったことなど
それぞれの役場の例をあげながら説明してくださいました。
 
 復旧、復興は、成長を前提としたハード中心の発展思考は二の次として、まず住まい、暮らし、教育・文化などの生活再建を進めること、自治体と市民主導の「急がない復興」が重要だとのことでした。
東京都の被災地支援に、今井先生のご指摘を大いに役立てていきたいと感じました。